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【テクノロジー最前線】天然素材「セルロースナノファイバー」はカーボン繊維を凌ぐか 2020年東京五輪も照準
産業技術総合研究所が開発中のセルロースナノファイバーを添加したスポーツシューズと靴底(手前)=1月、東京ビッグサイト(原田成樹撮影)  植物繊維をほぐしてできるナノサイズの新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」の実用化に向けた動きが加速している。木材などを綿のように なるまで分解(解繊)すると現れてくる微細な繊維で、物性をナノレベルで改良できる。2014年のアベノミクス政策「日本再興戦略」でも、産業創出に加え 林業を活性化する波及効果が見込めるとされ、利用推進が盛り込まれた。1月末に東京ビッグサイト(東京・有明)で開かれたナノテクノロジーの展示会「ナノ テック2016」で、CNFをとりまく熱気に触れた。(原田成樹)CNFの基本単位は、セルロース分子「(C6H10O5)n」が30~50個でできた非常に強固な微細繊維。直径3~4ナノメートル、長さ数マイクロメートルで、「ミクロフィブリル」や「シングルCNF」と呼ばれる。これを水に分散させて乾燥させると、紙の10倍の引っ張り強度を持つ透明なシートができ、電子基板材料などへの応用も期待されている。酸素を通さないため、バイオプラスチックと組み合わせて環境に優しい医薬用包装材としても期待されている。シングルCNFになる手前の状態で、ミクロフィブリルが数十個単位集まった直径数十ナノメートル、長さ約数十マイクロメートルの構造用CNFは、素材の強 化に使われる。自然由来のため作製や廃棄時のメリットが大きいというところも、炭素繊維など既存の物質からの置き換えが期待される点だ。「1グラムでも軽く」「軽くて強靱」の性質を使い、スポーツシューズの靴底軽量化に取り組んでいるのが、産業技術総合研究所(産総研)だ。アドバイザーのアシックスなどからは 「1グラムでも軽くしたいというのが長距離選手の希望だと聞いています」と話すのは、開発に関わる産総研の企画主幹、岩本伸一朗さん。試作品では、同じ性 能を通常の靴底より10%軽くできたという。2020年東京五輪で、日本選手に履いてもらうことを目標に掲げている。産総研では、素材そ のものの性質分析、加工法、用途開発など多面的に取り組み、国内の研究を主導している。CNFは親水性が高くて、疎水性のプラスチックとの相性があまりよ くなく、いかに混ぜるかなど研究課題は多い。しかし、同じプラスチック強化素材として先行する炭素繊維は型に骨組み用の繊維を敷き詰めてからプラスチック を流し込むという作業が必要なのに対し、CNFはプラスチックに数%混ぜて通常の射出成形機で加工でき、既存の設備をそのまま使えるメリットも見込めると いう。

産総研とともに、地域連携プロジェクトで、CNFの自動車用ゴム製品への利用を研究している、丸五ゴム工業(岡山県倉敷市)のブー スでは、グループ会社で作業靴などを製作する「丸五」が、靴底にCNFを混ぜて耐摩耗性を向上させた作業靴を試作。自動車用部品や作業靴の底などに使うと ゴムの表面が劣化して剥落するのを防ぐという。作業用手袋の指先にも適用してみているが、いずれにしてもコストアップと耐久性向上の兼ね合いが今後の課題 となる。

増粘材や塗料の耐候性アップなど多機能

CNF素材は、大手製紙会社や化学品メーカーのほか、工作機械(切断装置) メーカーも参入している。素材としてのCNFも販売するモリマシナリー(岡山県赤磐市)では、路面に敷くプラスチックブロックなどさまざまな製品への適用 を試している。スギノマシン(富山県魚津市)は超高圧水で物を切る「ウオータージェット」の技術を使った湿式微粒化装置と、自ら作製したバイオマスナノ ファイバーも販売。CNFに加えてカニ由来のキチン、キトサンのファイバー素材や化粧品のサンプルを展示し、増粘材としての利用を呼びかけている。やや専 門的になるが、セルロース分子には保湿効果のある水酸基と呼ばれる原子配列が多いため、医薬や化粧品など向けの機能性も期待できる。

モリマシナリーでは、経年劣化で塗料の表面がはがれるのを防ぐ用途も検討。CNFがネットワーク構造を作るため、これが割れないように支えるとみている。

「世界初の実用化」

昨年9月には、第一工業製薬と三菱鉛筆が「世界初の実用化」と銘打ってCNFをインクに使ったボールペンを、欧米で市販開始したと発表している。シングル CNFをゲルインクに入れることで、低粘度のインクのようにサラサラとした書き心地でありながら、インクのかすれを防いでいるとしている。

木材だけでなく稲わらなど廃材からも作れるCNFだが、作製にはエネルギーを使うため現状では1キロで数千円程度と素材としては決して安くない。しかし、 大規模化によるコスト低減も見込め、「臨界点」を超えれば一気に拡大する可能性がある。産総研では、産学官連携コンソーシアム「ナノセルロースフォーラ ム」を組織しており、255会員(うち法人161社)が参加。政府の後押しも受けて、産業界は巨大市場への道をまっしぐらに進んでいる。

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