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週刊現代賢者の知恵

2016年03月10日(木) 週刊現代

小保方晴子さんに「読者からの手紙」続々
~『あの日』が26万部のベストセラーに!

〔PHOTO〕gettyimages

2年近い沈黙を破って、突如として世に問われた小保方さんの手記。彼女を信じていた人も、そうでない人も、「この本がきわめて重要な証言だ」という点は一致している。あなたなら、どう読むか。

「読み終えると同時に涙があふれました」

「あの日に戻れるよ、と神様に言われたら、私はこれまでの人生のどの日を選ぶだろうか。一体、いつからやり直せば、この一連の騒動を起こすことがなかったのかと考えると、自分が生まれた日さえも、呪われた日のように思えます」

こう書き出された、小保方晴子さんの手記『あの日』が世に出て、早くも1ヵ月が経った。発行部数は26万部を超える勢いで、いまだに大きな反響が止んでいない。

「これは、現代の『魔女狩り』である」(青森県の男性)

「この一連の騒動に感じていた”違和感”の答えがわかったように思います」(沖縄県の40代男性)

「読み終えると同時に涙があふれました。よく頑張った、生きていてよかったと思いました」(50代女性)

2月21日付朝日新聞朝刊掲載の『あの日』の広告で紹介された、読者の声だ。本書の担当部署のもとには、今も連日、膨大な数のハガキや手紙、メールが届き続けている。

実は、そうした読者の声のうち、95%以上は、

「小保方さんには、今おかれた辛い状況を乗り越え、研究者として再起してほしい」

「これまで、いかに一方的な報道にもとづいて小保方さんが断罪されてきたのか、よくわかった」

そして、

「なぜ本書の中で小保方さんに名指しで非難されている共同研究者らは、何も話そうとしないのか」

といった、小保方さんの境遇に共感を寄せるものや、「STAP細胞」をめぐる騒動の真相究明を願うものである。手記を刊行する以前、小保方さんが受けていた大バッシングはいったい何だったのか、と見紛うほどに、彼女を肯定する意見が圧倒的多数を占めるのだ。

小保方さんがその中心にいた、’14年1月以降のいわゆる「STAP騒動」のときには、日本中が歓喜の頂点から絶望のどん底へ突き落とされた。

同年8月、小保方さんの上司にあたる理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長の笹井芳樹氏が自殺を遂げると、追及はいっそう小保方さんに集中した。

しかし、そんな狂騒の中で、内心、少なからぬ人がこう思っていた。小保方さんのことを、少なくとも一度は、日本中が信じたはずではなかったのか。彼 女は捏造を繰り返し、研究者としてのし上がることだけを考えて行動してきた、本当にどうしようもない「悪人」なのだろうか――。

『あの日』の刊行まで、小保方さんは体調不良を理由に口を閉ざしてきた。彼女の肉声を待ちわびていた人々が、本書を読んで「わが意を得たり」と叫ぶ声は、ネット上でも数多く寄せられている。

ネット書店最大手・Amazonにおける『あの日』のレビュー数は、2月25日時点で574件で、そのうち330件以上が最高評価の「☆5つ」。一部を紹介しよう(以下、山カッコの中はAmazonレビューより。すべて原文ママ)。

〈 この本に書かれている内容に対して、理研・若山さん・ジャーナリストの皆さんはきちんと説明する必要があると思います。その回答が、この本を読んで不信を 抱いている大勢の方達を納得させるものでなければ、その大勢の方達は、この本を信じることになるでしょう。僕もその1人です 〉

〈 一気に読みました。最後は涙が止まりませんでした。過酷で、理不尽で、救いがありません。あまりの無念さに胸が痛くなりました 〉

叩く人たちの心理

レビューの中で多くの読者が言及しているのが、「事件以後、小保方さん一人にすべての罪を負わせようとした、日本社会の異常さ」についてだ。

〈 著者に対する誹謗中傷は、常軌を逸してました。そこまで攻撃する権利が、あるのでしょうか。まるで、日頃のうっぷんや人生に対するうらみつらみを、彼女一人にぶつけているように見えました 〉

〈 善にみなされると徹底的に善とされ、悪にみなされると徹底的に悪とされる。(中略)初めは善と思い込んでいたものに疑いがかかると、手のひらを返して叩きまくる 〉

確かにこうした傾向は、小保方さんに対してだけでなく、スキャンダルの渦中にはまりこんだ著名人に対して、近年顕著にみられるようになった。著書に『他人を非難してばかりいる人たち』(幻冬舎新書)がある、精神科医の岩波明氏が言う。

「小保方さんは、割烹着を着て研究室で撮影を受けていたときから、理研が『アイドル』として売り出そうとしているのが透けて見えました。ですから彼女のことを、世間は科学者ではなく芸能人やタレントの枠でとらえてしまったのでしょう。

彼女のことを叩いている人の多くは、本職の研究者の方々を除けば、小保方さんに本気で怒っているわけではない。ただ彼女を断罪することで快感を得て、『自分は何を言っても許される』『自分には有名人を裁く権利がある』という万能感に浸っているだけです」

事実、Amazonのレビューで、330件超の「☆5つ」に次いで多いのは、最低評価の「☆1つ」、約130件である。『あの日』の評価が、読む人によって「最高の本」と「最低の本」の両極端に分かれるというのは、何とも興味深い現象だ。

全肯定か、全否定か

もちろん「☆1つ」をつけた読者の中には、理研による検証論文や他の文献と『あの日』を比較し、論理的に矛盾を指摘している人もいる。「小保方さんは手記ではなく、科学論文で自らの正当性を示すべきではないのか」という声も、うなずける。

しかしながら、「読む価値もない」「虚言癖の人物が妄想を綴った本」「すべてが作り話」といった、小保方さんと本書を全否定するような意見も散見される。脳科学者の茂木健一郎氏は、こう違和感を語った。

「僕自身は、『科学史を振り返ると、たった一人が唱えていた異説が革新的発見だったこともある』という事実を踏まえて、小保方さんを全否定はできないという立場です。

しかし、なぜか多くの人が、小保方さんに対しては感情的に反応してしまう。だから、『全肯定か、全否定か』というように両極端に意見が分かれてしまうのでしょう」

では、その理由は何だろうか。茂木氏が続ける。

「人は感情的になると、自分の意見に合う証拠だけを見て、自分に有利な解釈をするようになる。小保方さんに関しても、多くの人は、最初に『感情』があるのだと思います。

例えば、最初の印象で『女であることを武器にして出世した、けしからんやつだ』という評価を固めた人は、それに合致する情報だけを集めてしまい、当の小保方さんが語ることに耳を貸さなくなっている。

ネット社会の今は、冷静な意見が潰され、極端な意見ばかりが目立つ世の中です。『極端な意見が多数派を占めているように見え、中庸な人まで流されて極端な意見になる』という現象が起きているのだと思います」

『あの日』の中では、あくまで「小保方さんの視点から」ではあるが、彼女の上司であり共同研究者だった、若山照彦・山梨大学教授が、STAP細胞の 実験・論文作成においていかに大きな役割を果たしていたか、そしてSTAP細胞捏造疑惑の浮上後、いかに責任を逃れようとしたかも具体的に記されている。

例えば、STAP細胞に関する論文を撤回するか否か、関係者が協議を進める箇所の描写だ。

「撤回理由書は笹井先生が用意してくれた。しかし、その後若山先生から、『エラーの修正で済んでしまいそうな表現なので、撤回の必要性が弱い気がします。すこし僕の思ったことを追加してみます』との連絡が入った。

一体なぜ修正で済んでしまってはいけないのか理解できず、必死に撤回しようとする若山先生を見て、一緒に実験をしていた日々を思い出し悲しかった。

(中略)(若山氏のメールの)内容は、STAP幹細胞が若山研にはいなかったマウスの系統で作製されたものだったなど、私がまったく知らない情報が大量に盛り込まれており、驚きのあまり言葉を失うものだった」

こうした事実関係についての記述を読むかぎり、「小保方さんだけがウソをついている」とは考えにくい。関係者の多くが実名で登場している以上、その中の誰かが反論すれば、彼女の証言は崩れてしまうはずだからだ。

しかし若山氏をはじめ、事件の核心を知る人々はいまだ沈黙を守り、説明責任を果たしていない。

読む人の心を映す鏡

前出の岩波氏も、小保方さんのみに責任を負わせる風潮に、医師の視点から異論を述べた。

「ふつう、論文の共著者には、不祥事があった場合は連帯責任があります。『私はこの実験のここからここまでしかやっていないので、不正については知りません』という言い訳は通りませんから、若山氏らからも何らかの説明が必要でしょう。

それに、『世紀の発見』といわれた科学論文が、再現性が認められずボツになる、というのは、『ネイチャー』に載るようなレベルでも決して珍しいことではありません。

精神医学界でもしばしば『自閉症の原因遺伝子が見つかった』といった 画期的論文が発表されますが、大半は再現できず、消えていきます。世間が小保方さんに過剰な期待を寄せ、『STAP=小保方さん』という図式を作り上げて しまったことが、そのまま過剰なバッシングに形を変えていったのではないでしょうか」

小保方さん自身、STAP細胞に関する研究論文での画像の切り貼りや、早稲田大学に提出した博士論文での「コピペ」に関して、『あの日』の中で否定しているわけではない。彼女の行為を、許せない人もいるだろう。

それでも、『あの日』が多くの読者の心を強く揺さぶるのは、「彼女一人を、スケープゴートにしていいのか」という、誰もが心の奥底で感じている「疾しさ」を、本書が呼び起こすからではないか。最後にもう一つ、読者の声を紹介したい。

〈 小保方さんの本を読んだ話を何人かの知人に話したが、みんな一様に反応は厳しい。小保方さんの「人となり」に対するバッシングがすごくて本の話をすること自体がむずかしい。もう科学者としての道具をすべて剥ぎ取られ消された人だ。

(中略)どうして、こんなに本気でやっつける必要があるのかな。小保方さんの何が、人をこんなに不安にさせるんだろう 〉

『あの日』は、読む人の心を映す鏡のような本だ。本書を虚心坦懐に読まずして、STAP騒動を語ることはできない。

「週刊現代」2016年3月12日号より

 

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